米朝首脳会談 非核化へ「北」の決意が見えぬ


 ◆開催巡り熾烈さ増す主導権争い◆

 北朝鮮の挑発的な言動と約束違反を黙認していては、非核化の進展は、到底期待できまい。

 金正恩朝鮮労働党委員長との直接会談で決裂する事態を回避し、事前に真摯(しんし)な対応を促すための、熾烈(しれつ)な駆け引きの表れだと言えよう。

 トランプ米大統領が6月12日に予定されていた米朝首脳会談の中止を北朝鮮に伝えた。

 北朝鮮が最近の声明で米国への「怒り」や「敵意」を示したことを理由に、会談の実施は適切ではない、と判断したという。

 ◆無用な挑発が目に余る

 トランプ氏は一方で、「建設的な対話と行動を選ぶなら、私は待っている」と再調整への含みを残した。当初の予定通りに開催する可能性にも言及した。

 会談開催を巡る混乱を引き起こした責任は北朝鮮側にある。

 金委員長が米韓合同軍事訓練を容認すると発言したにもかかわらず、北朝鮮高官は最近、反対する見解を表明した。訓練を理由に南北会談を中止し、米国が一方的な核放棄を強要するなら首脳会談も「再考」するとした。

 シンガポールで行うはずだった米国との準備協議には、北朝鮮高官が現れなかったという。

 崔善姫外務次官は24日の談話で自国を「核保有国」と位置付け、米国と「核で対決」する可能性にまで言及した。北朝鮮への軍事攻撃の選択肢を排除しなかったペンス米副大統領に対し、「愚鈍な間抜け」と名指しで罵(ののし)った。

 米朝協議の主導権を握ろうと、揺さぶりをかけた結果、トランプ氏から想定以上の反発を招いた。常套(じょうとう)手段としてきた瀬戸際戦術を過信していたのではないか。

 金桂官第1外務次官は、首脳会談の中止表明について、「予想外のことで、非常に残念だ」とする談話を異例の早さで発表した。衝撃の大きさがうかがえる。

 談話は、対米批判を抑え、「いつでも、どのような方法でも、向かい合って問題を解決していく用意がある」と強調した。関係修復を図っているのだろう。

 北朝鮮は24日、北東部・豊渓里の核実験場の廃棄作業を行った。坑道の入り口や関連施設を爆破し、記者団に公開したが、国際原子力機関(IAEA)などの専門家は招かれなかった。

 ◆中韓含め圧力の維持を

 計6回行った核実験では、使われた核物質の種類や爆発の規模など、不明な点が多い。核開発の実態解明には、専門機関による実地検証が不可欠だ。これでは、非核化に真剣に取り組む意思を疑われても仕方あるまい。

 米国が「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」の先行を求めるのに対し、北朝鮮は「段階的、同時並行的な措置」を主張する。非核化のカードを切るたびに、経済支援や体制保証、米軍の脅威削減などの見返りを得る狙いだ。

 この溝が埋まらなければ、首脳会談の成果は期待できない。

 金委員長に核放棄の決断を促し、対話解決の流れを軌道に乗せるには、国際社会による最大限の圧力の維持が欠かせない。

 韓国の文在寅大統領はトランプ氏の中止表明について「当惑している。非常に残念だ」と述べ、双方に歩み寄りを求めた。

 米朝の橋渡し役を務めたことは評価できるが、4月の南北首脳会談以降、融和ムードに過度に傾き、結果的に北朝鮮の恫喝(どうかつ)外交を許した側面は否めない。

 今月上旬には、韓国籍タンカーが公海上で北朝鮮の船に横付けしているのが確認された。洋上で物資を積み替えて密輸する瀬取りの疑いが持たれている。韓国政府は、包囲網に綻びが出ていないか、改めて点検する必要がある。

 北朝鮮の最大の貿易相手国である中国の責任も重大だ。習近平国家主席は、対北朝鮮制裁を緩めず、金委員長に粘り強く説得を続けることが求められる。

 ◆危ういトランプ外交

 米朝首脳会談を3月に受諾した時も、中止表明も、トランプ氏が拙速に決めている印象が強いのは気がかりだ。長年にわたる米朝間の不信の解消に一定の時間がかかるのは自明のことだろう。

 大統領が前面に出て決着を図る手法は、突破力がある反面、危うさが残る。実務者レベルでの積み上げなしに、実りある交渉はできない。外交経験に乏しいトランプ氏が感情に流され、緊張を不必要に高める懸念もある。

 菅官房長官は、「北朝鮮の政策を変えるため、日米韓で連携しながら、しっかりと取り組んでいく」と語った。3か国の政策調整を強化していくことが重要だ。